アスベストによる環境リスク

アスベストによる環境リスク

アスベストの特性と危険性

 

アスベストは「石綿」とも呼ばれる天然の鉱物繊維であり、価格が安く、建材として優れた特性を備えていることから、広く建物に使用されてきました。しかし、2005年にアスベスト工場での健康被害が公表されたことをきっかけにして、アスベストの危険性が一気に社会に認識されるようになりました。

 

アスベストの特性
  • 紡織繊維性・・・繊維が他の無機、有機繊維に比べ著しく細い
  • 耐熱性・・・500℃まで安定する
  • 抗張力・・・ピアノ線より引っ張り力が強く、しなやか
  • 耐薬品性・・・酸・アルカリ、その他の薬品に対する抵抗力が強い
  • 保湿性・・・吸湿、吸水性が小さい。保温性も高い
  • 耐久性・・・通常の環境下では、半永久的に分解、変質しない
  • その他の特性・・・熱絶縁性、絶縁性、耐摩耗性、防音性に優れている

 

アスベストが引き起こす健康被害は、その極めて細い線維が原因であることが知られており、空気中に飛散した線維を吸い込んでしまうと肺に長期間とどまって、数十年の潜伏期間を経て、「悪性中皮腫」や「肺がん」などを発症する可能性があります。

 

建物で使われているアスベストは、繊維が飛散する可能性の度合いによって3つに分けることができます。最も飛散可能性が高いのが「吹き付けアスベスト」です。鉄骨の柱や梁、駐車場の天井や壁などの耐火被覆のために使われており、セメントの含有率が低いため、もろく傷つきやすいのです。

 

飛散可能性が中程度なのが「保温材、耐火被覆材」です。設備ダクトの継ぎ目、ボイラーの配管などに巻きつけて使われており、通常の使用状態では飛散するおそれは低いですが、取り扱いによっては飛散しやすいので注意が必要となります。

 

最も飛散可能性が低いのが「アスベスト形成板」です。屋根、外壁、仕切り壁、部屋の床などに使われていますが、破砕しなければ飛散するおそれはほとんどないと考えられています。ただし、内装工事や解体時には対策が必要となります。

 

 

建物の所有者・管理者に飛散防止の義務

 

これまでに、アスベストが含まれる吹き付け材や建材を新たに使用することは一定の制限がなされましたが、すでに使われた建物からアスベストを除去することを義務づける規定はありませんでした。しかし、2006年2月に建築基準法が改正されて、飛散のおそれのないものを除いて、すべてのアスベスト建材の使用が禁止となったのです。

 

改正法の施行後は、アスベスト建材が使われている建物は、「既存不適格建築物」となってしまい、増改築時にはアスベストを除去するなどの措置が義務付けられるようになりました。

 

また、2005年7月に施行された石綿障害予防規則では、アスベストに関する建物の所有者の責務が定められています。事業主には建物の解体前の事前調査や作業計画の策定の措置が義務づけられ、建物の所有者、管理者にも飛散防止のための措置が必須となっています。もし必要な措置を怠った場合には、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。

 

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アスベスト調査と処理方法

アスベストによるさまざまなリスクを回避していくには、まずはその存在の有無を確認していくところからはじまります。建物の設計図や施行記録などから、アスベストが含まれている可能性のある建材が明らかになることがあります。設計図に記されている商品名・建築年次とアスベストが含まれていた商品の製造時期を照合していきます。

 

 

なお、資料のみによるアスベストの識別には限界があるので、より効率よく判定するためにエンジニアリング・レポートの取得する方法があります。設計図書による確認に加えて、現地調査や関係者へのヒアリング、サンプリング調査、専門分析機関による分析調査などで確認をしていきます。

 

 

専門分析機関では、X線回折法という方法を用いて材質分析を行っていきます。まずは、アスベスト含有の有無を調べるための「定性分析」を行います。含有が確認されれば、「定量分析」によりアスベスト含有率を算出していきます。

 

アスベスト調査・分析費用の目安
  • 定性分析・・・2万〜6万円/1検体
  • 定量分析・・・6万〜19万円/1検体
  • 浮遊濃度測定・・・5万〜10万円/1点

 

除去、封じ込め、囲い込みの3つの処理方法

 

調査の結果、アスベストが使われていたことが判明した場合、安全対策として除去、封じ込め、囲い込みの処理を講じなければなりません。

 

アスベストの処理方法と費用の目安
  • 除去・・・最も確実な処理方法で、吹き付けアスベストを全部除去して、必要に応じて他の非アスベスト建材を代替として使用する方法。費用は、処理面積300u未満で2万〜8万円、300〜1000uで1万5000〜5万5000円、1000uで1万〜2万5000円。
  • 封じ込め・・・アスベストの表面に固化剤を吹き付けて保護膜を作ったり、内部に固化剤を浸潤させて飛散を防止する方法。費用は、1万2000〜3万円。
  • 囲い込み・・・アスベストが吹き付けられている天井、壁などを非アスベスト建材で覆って飛散を防ぐ方法。費用は、1万〜5万円。

 

不動産の取得にあたっては、アスベストの状況に関する情報が不十分なまま売買契約を結んでしまうと、取得後にアスベストの使用が発覚した場合に、損害賠償などのトラブルが生じてしまう危険があります。このようなリスクを回避するために、アスベストの処理に要する費用の負担や、瑕疵担保責任に対する賠償責任の範囲を明記しておくことが必要です。

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